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詩・その他


by superkavi

哀しみ皇子(5)

ぼくは哀しみを探索する哀しみ皇子

涙を宝石にするオジサンのお家に昨日は泊まったの
「皇子、そろそろ起きなさい、もうそろそろ琥珀色に染まる」
オジサンはそういった

ねえ、オジサン
ぼく昨日の夜、泣いちゃって涙が出たから、ハンカチーフに取ってあるの
これを宝石に変えてくれないかな
きねんに持っていきたいんだ
「皇子、これはダメだよ、前にも言ったが、優しさが加わっていないから」
残念そうにオジサンはいうけれど、ぼくはもっと残念なんだ
優しさってなんだろう?
あ、手の中の哀しみが、ぼくのそのハンカチーフを食べちゃった・・・

「さあ、皇子、哀しみ本線まで送るよ」
オジサンのしごと、今日は休みなんだって

涙を宝石に変えて、それをみんなはどうしているの?
「貧しい人はそれを売り、生活の糧にできる人もいる
お金持ちはコレクションだね
でも、多くの人は、哀しみの谷に持っていくんだ
谷の水底に宝石を沈めるのさ
そうすることで水が枯れないと昔から言われていてね
その場所は、世界でもっとも優しく泣くことができる場所だって
信じられているのさ」
哀しみの谷かあ、哀しみ皇子としては、一度いかなくちゃ
「あははは、皇子、そこには哀しみ本線はないんだ
自分の足で歩いていかないといけないんだ
それに、宝石を持っていないものは、入れないと云われていてね」
ええ!じゃあ、宝石を持っていないぼくは・・・・
「入れないということだね
でも、皇子が本当の哀しみを理解できるときに
その谷への道は開かれるだろうよ」
本当の哀しみ・・・・・・
やっぱり、哀しみマニュアルの言葉は、まちがっているのかなあ
「ままならないから、哀しむって、アレかい?」
オジサンは微笑んでいる
やっぱり違うのかなあ

プシューって、列車が蒸気を出してる

もう、発車の時刻みたい
ねえ、オジサンさんが死んじゃったら、もう、涙は宝石にならないの?
「そうだね」
どうしてさ?
「そういう決まりなんだ
俺には嫁さんも子供もいないからさ」
じゃあ、結婚すればいいのに!
オジサンがいなくなっちゃったら
谷の水も枯れて、涙を宝石に変える人がいなくなっちゃって
宝石を売れない人がふえちゃって、貧しい人がよけいに貧しくなって
で、で、で
この星になにかあったときに、修理できそうな人がいなくなっちゃうじゃない

オジサンは笑っている

「皇子はまっすぐな、よい子だね」
オジサンはぼくの頭をやさしく撫でてくれた
「世の中はね、悲しみが溢れている
哀しみ、ではなくてね
みんな派手なことが好きだし
涙を宝石に変えるということの
素晴らしさなんか理解しちゃいない
宝石を売ったり眺めたり、そういうことは理解できてもね
谷に行く人は、本当の哀しみを知る人だ
だが、その人も職人になろうとは思わない」

どうしてさ?

「自分の哀しみで、手が一杯だからね
人の哀しみまで面倒を見切れないのさ」

ぼくは泣いていた
べつにオジサンと離れるのが厭だから泣いたんじゃないのに
オジサンのあとをやる人がいないから?
たぶん、違うの
哀しみマニュアルなら、きっと
オジサンと離れたくないのに離れちゃうから
とか
すばらしいしごとする人が、オジサンを最後に終わっちゃうから
とか、いいそうだけど
違うの、そうじゃないの
言葉ではいえないけど・・・

「皇子はまっすぐな、よい子だね」
オジサンはまた、そういって
ぼくの涙をハンカチーフみたいなもので拭ってくれた
なんだか、涙が止まらなくて、ボロボロ
「皇子、この涙を宝石にして、記念に置いておくよ」
オジサンはそういったけど・・・けど・・・
ぼくの涙はやさしさが加わっていないからダメだって、さっき
「皇子、宝石にするための優しさの涙には、条件が二つある
一つは、誰かのために涙を流すこと
ただ、これは自分のために涙を流しても、原石としては使えるんだけどね
そのかわり、宝石としては、一級にはならないんだけど
そして
もう一つは・・・・・
これは、皇子、君が自分で考えなさい
皇子にならきっとわかるから
君が、哀しみ皇子で俺は嬉しかったよ
本当にありがとう」

ありがとうって、ぼくは何もしちゃあいない
それをいうのはぼくのほうだ
屋根の上に哀示美鳥がいて、こちらを見てる
めずらしく、なかない
そういえば、手の中の哀しみも、すやすや眠ってる

ベルがなった
列車が出るんだ
わかったよ、オジサン、ぼく考えてみるから!
そしたら、また、ここに来るから!
それまで、それまで・・・・
また、来るから!

ぼくは窓から一生懸命に手を振った
涙が飛行機雲のように尾を引いたよ
ぼくはどうして哀しみ皇子なんだろう
列車に並んで、哀示美鳥が飛んでいたよ

とうさん、かあさん
ぼくはまだ、旅をつづけるよ
オジサンと約束したから
変な人のいったとおり
ぼくは何もしらない
だから・・・

また手紙書くから


「えー、次の停車駅はー
鏡のない二人だけの世界
停車駅はー
鏡のない二人だけの世界
停車時間は
二人の時間思い出のアルバム~

二人の時間思い出のアルバム~」

車掌さんの声がした
by superkavi | 2007-07-26 02:59 | 哀しみ皇子