詩・その他


by superkavi

哀しみ皇子(6)

ぼくは哀しみを探索する哀しみ皇子

つぎの停車駅は、鏡のない二人だけの世界なんていう
変な名前の駅なんだ
哀しみ本線って、かなり変わってるよ
でも、あんまり揺れないのはいいところ

「哀しみ本線名物『日本海』はいかがでしょうか~」
ねえねえ、名物『日本海』ってなんなのさあ
「哀しみ皇子、これはですね・・・・」
あれ?この人もぼくの名前を知っている、どうしてだろう?
「見ると哀しくなることの出来る抜群のお土産なんです
これとは別に『津軽海峡』というのもありますが」
売り子さんはそういう
ナマモノなの?
「えー、そういう風に言われていますが・・・・賞味期限があるわけではありませんので」
なんだか、よくわからない答えだね
じゃあ、哀しみをしるために、一つぼくに売ってちょうだい
「皇子、申し訳ありません、これは日本人という方々しかお売りできない決まりでして・・・」
にほんじん?誰さ、それ
「この、『日本海』や『津軽海峡』で哀しむことの出来る方々です」
じゃあ、ぼくではダメってこと?
「はい、そうなります・・・」
なーんだ、つまんないの
でも、この車両にはぼくだけじゃない
他の車両にどれだけの人がいるのか、ぼくしらないなあ
ねえねえ、日本人っていう人は多いの?
「昔はたくさんおられましたが・・・・いまは、すっかり少なくなりましたね」
どうしてさ?
「哀しみ本線ではなく、悲しみ鉄道(株)をご利用されることが多くなったと伺っております・・・・」
売り子さんは、ちょっと困った顔をしながら、ぼくに話してくれる
売りにいかなくていいのかな
どうなんだろうね?
ぼくは心の中で、手の中の哀しみにつぶやいてみた
手の中の哀しみはアクビしている
失礼しちゃうなあ、もう

売り子のお姉さん、哀しみマニュアルにあったんだけど
哀しみは、ままならないから哀しむのかな?
「難しいことはわかりませんが・・・・・
『日本海』なんかを買われる方々を多く見てきた経験から言わせてもらいますと
違う気がします
どこか懐かしそうに買われていきますから
それを見て、哀しむことができるということは、マニュアルのいうこととは違うと思いますね」
うーん、やっぱりそうかあ
ぼくはあの変な人に会わなかったら、そんなことも考えなかったなあ

売り子さんは、自分の話に熱中してきちゃったみたい
とうさんもそうだけど、大人ってすぐにこうなるよね
『日本海』のつまった籠を他の席において、寄りかかるようにして
売り子さんは、ぼくに話しかけてくる
いい忘れたけど、優しそうな女の人なんだ
すらっと背が高くってね

どうしてみんな悲しみ鉄道(株)にいっちゃうのさ
「悲は『心に非ず』と書きますから、ゼスチャーなんです
誰しも感情的にわぁーって騒いでそれで終われる、手ごろな悲しみのほうが楽ですから
自分一人で出来ますからね、悲しみは」
なんか違う気がするなあ、ぼくが哀しみ皇子だからかもしれないけど
「皇子はいい人なんですね」
売り子さんが笑っていう
職人のオジサンにもいわれたけれど、そうなのかなあ?
「哀しみ本線も、いろいろやったんですよ、それこそ、哀しみハイウェイ事業とか
でも、やっぱり喜びアウトバーン事業とかには敵わなくって
悲しみ鉄道(株)なんかは、高速道路に『悲しみSA』なんてものを作って
そこには『悲しみこそ人生のスパイスだ』って安っぽいフレーズなんかつけるんです
それがまた、人気がでたりしまして
けっきょく、この哀しみ本線は、民営化されることが決まってしまいました」

え?えーーーーー!
みんえいか?なくなっちゃうの?
「おそらく
哀しみ事業では採算が採れないらしいです
違う鉄道に変わるのではないでしょうか・・・・」

とうさん、かあさん
ぼくはショックだよ、哀しみ皇子なのに、哀しみ鉄道の力になれないなんて

売り子のお姉さん、じゃあ、淋しくなるね
ここがなくなったら、どうするの?悲しみ鉄道(株)にいくの?
「いいえ、あそこは売り子を必要としてないんです
だから、云っても仕方がありませんから
わたしはここで、最後の日まで、極上の哀しみを体験していただくために
サービスを提供するでしょう
あとのことはそれからです
皇子のように、哀しみを知ろうと、この哀しみ本線に乗ってくれるお客様のために」
売り子のお姉さんは、そういってしごとに戻っていった

今日は哀示美鳥の声も姿も見なかった
前に車掌さんが言っていたけど、昔、哀示美鳥はたくさん飛んでいて
それは美しい群れだったって

とうさん、かあさん、哀しみと悲しみは何が違うんだろう
哀しみが必要でなくなっているとするなら
ぼくは哀しみ皇子としてなにもできないのかな?
もうすぐ、次の駅だって
また手紙書くから
とにかく、ぼくは生きているからね
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by superkavi | 2007-07-26 03:01 | 哀しみ皇子