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詩・その他


by superkavi

哀しみ皇子(7)

鏡のない二人だけの世界
なんていう駅にぼくは降りた
いつも思うけど
哀しみ本線の駅名は不思議な名前が多いの
駅でおトイレにいってみたんだけど
鏡はなかったね
なんでだろ?

手の中では哀しみが鼻歌を歌ってる
こいつに鼻があるとはぼくにも思えないけどね

男の人がいる
すいませーん
「ん?・・・こんな何もないところに、珍しい」
男の人はそういう
えっと、ぼくの名前は・・
「哀しみ皇子なんだってな、よろしく」
うーん、この人もぼくの名前をしっている
なんでだろう?まあ、いいや
よろしく、お名前はなんていうの?
「俺か?俺には名前なんかない・・・いや、必要ないからな」
え?じゃ、じゃあ、なんて呼べばいいの?
「ああ、そんなときは、太郎とでも呼んでくれって言ってある」
太郎?
「そうだ、そして嫁さんの呼び名は花子だ、わかりやすいだろう?」
そういえば、ぼく、出会った人の名前は何もしらないね
変な人、宝石職人のオジサン、売り子のお姉さん・・・・
「もっとも、二人しかいないから、おまえ、あなたって呼び合うぐらいだけどな」
太郎さんはそういって笑っている
そういえば、ここは、鏡のない二人だけの世界という駅だ
本当に二人きりってことなんだ
太郎さんは何をしているの?
「ああ、これか、農業ってやつだな」
農業がおしごとなの?
「いやあ、仕事っていうか、生きるために必要ってやつだな
ここでは何でもしなくちゃいけない
土地も他に比べれば痩せているしね
なにしろ二人きりだ
出来ることを二人でやって、支えあわなくちゃ生きていけないからね」
他の人は誰もいないの?
「時々ね、やって来たよ、ここの噂を聞いてね
ここでは一人で住んではいけない、という決まりがあってね
正確に言うと、一人では生きていけないってことなんだが
最低二人いないと、やっていけない
家族も来たし、恋人同士や夫婦、そんなのがたくさん来たよ」

でも、いなくなったの?

「ああ、多くは仲違いをしてね
ここはほら、貧しい土地だからね
多くを望むと争いになる」

じゃあ、どうして太郎さんたちは、ここに居ることができるの?

「なんとかここで採れる物で生活していけるし、愛する人がいる
そういうのを、幸せっていうんじゃないかい?皇子」

もっと欲しいとか、豊かになりたいとか、他の土地に住みたいとかはないの?

「貧しくても豊かでも、人は争いをするからね
貧しければ、お金がないと喧嘩し、分け前が不平等だと、富が多ければ喧嘩する
それに、他の土地に行ったって、生きていく苦労に違いはないから
皇子こそ、こんなところに何のようなんだい?」
ぼくは変な人に出会ったことや、職人のオジサンの話をした
「哀しみを探る旅にねえ・・・いまどき珍しいなあ」
感心したように太郎さんはいうけれど、そんなに珍しいのかなあ
でね、職人のオジサンが、涙にやさしさが加わらないと宝石にならないっていわれたの
それがぼくにはわからないのね
オジサンは、皇子にならきっとわかるっていってくれたのだけど
「なるほどなあ、そういうことかあ
皇子、今日はうちに泊まっていきなよ」
え?太郎さんところに?
「ああ、あいつにも皇子を紹介してやりたいし
ひょっとすると、その優しさの涙ってやつのヒントになる話をしてやれるかもしれんから」
どうしよう?こんども列車の発車時刻がよくわかんなくて
「二人の時間思い出のアルバムってやつだろ?
大丈夫さ、そんなに簡単に語りつくせやしないのだから」
太郎さんは笑った
どこからともなく

シミジミ~シミジミ~

と、哀示美鳥がないている声が聞こえるね
「ほら、哀示美鳥だって、そうしろって言ってるぞ」
太郎さんは、一本の木を指差してぼくにいった
そこには哀示美鳥が一羽いた
太郎さんは哀示美鳥の言葉がわかるの?
「いやあ、なんとなくさ
あの一本の木には、ときどき哀示美鳥が羽を休めにくるんだ
ここでは、数少ない我が友人というところだね」
太郎さんはまた笑った

とうさん、かあさん
ぼくはまた、しらない人の家に泊めてもらうことになっちゃった
ごめんなさい
でも、花子さんにも会っておきたいし
やさしい涙のこともしりたいから

じゃあ、また、手紙に書くね
by superkavi | 2007-07-26 03:02 | 哀しみ皇子