詩・その他


by superkavi

哀しみ皇子(8)

ぼくは哀しみを探索する哀しみ皇子

鏡のない二人だけの世界という駅で
ぼくは太郎さんに出会った
そして、ぼくはまた、泊めてもらうことになったんだ

太郎さんについて、家までいく
そこは、たぶん、手作りなんだろうね、質素な感じの家

「いま、帰ったよ」
太郎さんがドアを開けて入ったので、ぼくも後からついていった
「お帰りなさ・・・・あら?」
たぶん、花子さんなのだろう
やさしそうな感じの女の人がいた
「珍しく客だ、哀しみ皇子っていうんだよ」
太郎さんは、そういってぼくを花子さんに紹介してくれた
「あなたが客人を連れてくるなんて、珍しいわね」
花子さんは微笑んだ
そして、ぼくの頭と手の中の哀しみをそっと撫でて
「よく来てくれましたね」
なんていう
ぼくはちょっと、しばらく会っていない、かあさんを思い出したよ

「あなた、お風呂の用意が出来ていますから」
「ああ、そうか、ありがとう、皇子、君もいっしょにどうだ?」
あ、いえ、その、ぼくはお風呂が苦手なので・・・・
「あははは、なんだそりゃあ、まあ、いい
お?お前は来るか?」
ぼくの手の中から、哀しみが太郎さんについていく
え??お前、お風呂に入るのか?えぇ??
ホットな哀しみになってどうするのさ!
という、ぼくの問いかけは無視して、哀しみの奴はご機嫌でついていった
ぼくはあいつのことが、ちょっとよくわからない

花子さんは、食事を作っているらしい
太郎さんと哀しみがお風呂に入っている間に、花子さんに話しかけてみた
ねえねえ、花子さん
「え?花?・・・ああ、私のことね」
花子さんは、ぼくの呼びかけに少し驚いたようだった
だって、花子さんでしょ?
「まあ、そうだけど
本当の名前は違うのよ
ただ、ホラ、ここには、あの人と私だけで、呼び合うときも、お前とあなたで
元々の名前は呼びにくい名前なのよ、二人とも
だから、ここで二人のときは本名はいらないし、尋ねて来る人が呼びやすいように、って
太郎と花子は、あの人がそうやってつけた仮の名前なのよ」
ぼくは驚いた
そりゃあ、ぼくだって哀しみ皇子ってあいまいな名前ではあるけれど
「でも、花子でいいわよ、ここでは私を指すことには違いはないのだし」
そうなんだ、うーん、なんかちょっと複雑な気分だけど、ぼく
花子さん、ここではどうして鏡はないの?駅のおトイレにもなかったんだけど
「鏡はね、自己愛を増幅するからよ
まあ、これはある人が提唱した説でしかないけれど」
じこあい?事故にでも逢うの??
「うふふ、そうね、事故みたいなものかもしれないけど
自分を愛することが強くなってしまうってことなの」
それっていけないこと?ぼくは、自分を愛するように、他人を愛しなさいって
そう教わったよ
「皇子は真っ直ぐないい子
言葉でいうならば、皇子が教わったとおりよ
それが正しいわ
でもね、人間はそれほど賢くもないし、自分が可愛い生き物なのよ」
えっと・・・・それと同じように他人を愛せればいいんでしょ?
「そうね、でもね、出来る人が圧倒的に少ないから・・・そういう言葉って言われると思わない?」
ぼくは、グーの音もでなかった
確かにグーとはいわなかったけどさ

「鏡を置かないのは、私とあの人が二人でいられるため
髪の毛とかは、互いに切りあうのよ
私の髪は、あの人が私に似合うと思う髪形で
あの人の髪は、私があの人に似合うと思う髪形にするのよ」
好きな髪形とかにしないの?
「どうして?誰かに気にいってもらいたいとか、美しい、似合っているって言って欲しいのなら、私はあの人だから、あの人の思う髪形であればいいわ
そりゃね、長さとかはあるわよ、夏場とかはすっきりしてないと、作業に差し支えるとか、過ごしにくいとか、時々だけど、哀示美鳥の落としていった羽で飾ってみたり
そういうのはね、二人で話せばいいことだし」
お化粧とかしないの?
「あの人、あまり化粧が好きじゃないらしいから
ここではね、鏡が必要なことは、相手がいないと出来ないのよ」
それって、面倒じゃないの?時間もかかると思うし
「そうでもないわよ
ここでは二人だけだから、時間とか二人で共有するものだし
急かす誰か他の他人や社会があるわけでもないから
あの人の髭だって、私が剃ってあげたりするの
もちろん、面倒臭いとやらないとかあるけれど、いっしょにお風呂に入ったときに、頭を洗ってあげるとき剃ってあげたり」
ええ!い、いっしょに入っているの??お風呂
「そうよ、夫婦だもの、誰に気兼ねもいらないでしょ
それに、お風呂だからこそ気楽に話せることもあるし
毎回ってわけじゃないけれど」
ぼくのかあさんは、よく、とうさんに一緒に入ろうって誘われてるけど、入らないんだ
身体を見られるのが嫌だとか、なんとかで
「女性はね、たぶん、老いるのが怖いから
私もそうね、はじめはそうだったのよ
でも、あの人がね、老いるのはお互い様だ、俺はお前と重ねた年月をお前と分かち合いたいとか言ってね、無理やり
今では、慣れたけど
一緒に入ってね、あの人の身体を洗ってあげているとね、いろいろわかるのよ
今日はこんなところを怪我しているとか、肌の具合がよくなさそうだから、体調不良なのかな、じゃあ、食事はどうしようとか、お腹が出てきたなあとかね
あの人ね、私が頭を洗ってあげると、本当に気持ちが良さそうなの
たぶん、本当は、私・・・・その顔が見たいだけなのかもしれないけれど」

ぼくは、なんというか、とんでもない異世界にいる気がするのね

「ふふ、そうかもね
ここにはあの人と私だけだから、他から見れば異世界なのかも」
ぼくは愛し合うということは、あんまりよくわからないのだけれど、太郎さんと花子さんは愛し合ってるんだね
とうさんとかあさんなんか、最近、喧嘩ばかりしているよ、ほんとにもう
「愛し合っているかどうかは、私にもわからないわ」
え?だって、それだけ二人がなんでも一致した考え方できるなんて、そう呼ぶような気がするんだけど、ぼく
「私にだって、あの人の気に食わない部分もあるわよ、そりゃ」
花子さんが大笑いする
「あの人にも私の中で気に入らない部分は、当然あるわ
もともと他人だもの、すべてが合うことなんてない
私にはあの人が必要で、あの人も私が必要で、それがその気に入らないという部分よりも、二人で生きていくうえで大切なだけのことよ」
喧嘩とかしないんでしょ?
「あるわよ、当たり前でしょ
でもね、ここでは喧嘩したままだと、一人ぼっちになって、何もできなくなるから、お互いに
そういうときにね、お互いの大切さを教わって、それでね、仲直り
愛とかなんとか、私にはどうでもいいことなの
あの人が私には必要で、あの人も私が必要で、それだけだから
その関係を他人がどう呼んだって、私にはあまり意味はないわ」

とうさん、かあさん、花子さんのいうことをこうやって書きとめているから、少しは仲良くしてよね

ねえ、花子さん
ぼくは涙を宝石にできる職人のオジサンから、涙を宝石にするためには、やさしさが加わらないとダメだって教えてもらったんだけど、普通の涙と、やさしさが加わった涙の違いがわからないの
オジサンは、皇子にならきっとわかるからっていってくれたのだけど
あ、でも、花子さんは哀しくて涙を流すことなんか、ないよね
これだけ二人で支えあって生きているんだもの
「私だって、泣いているときだってあるわよ」
え?えー!そ、そんな
「女はね、意味もなく泣きたくなることだってあるの」
生活が辛いとか、そういうことじゃなくて?
「そういう時もあるわよ、でも、そうじゃなくって、ただ、なんとなく泣きたくなるときが」
それが、やさしさの加わった涙?
「いえ、そうじゃないわ
私がね、泣いていると、あの人がそれに気づくときがあるの
そしたらね、そっと、ほんとにそっとだけど、指で私の涙を拭ってくれるの
そのね、なんともいえない優しい顔を見たらね、涙が溢れてとまらなくなるの
その涙なんじゃないかなって」
そういえば、オジサンも相手の涙を拭ってあげていたっけ
そうか、拭ってもらえる涙なんだね
「形の上ではそうかもしれないけど、たぶん、本当は・・・・・」

いいところで、お風呂から哀しみと太郎さんが出てきた

うーん、もうちょっとでわかりそうな・・・・・

とうさん、かあさん、お風呂をいっしょに入らなくてもいいからさ
時々でいいから、背中の流し合いぐらいはしてもいいかなって、花子さんの話を聴いて、ぼくは思うんだけど
じゃあね、また手紙書くから
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by superkavi | 2007-07-26 03:03 | 哀しみ皇子