詩・その他


by superkavi

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哀しみ皇子(9)

ぼくは哀しみを探索する哀しみ皇子

目覚めのいい朝
太郎さんと花子さんの家に泊めてもらったぼくは、哀しみとともにすがすがしい朝を迎えたよ
昨日の夜は楽しかった
太郎さん、面白い人で、花子さんは優しい人で
ちょっと憧れちゃうな、ぼくは

今日は、太郎さんについて、釣りにいくの
遊びじゃないよ、れっきとした生活のためのおしごとなのね、これも

川まで太郎さんといって、ぼくは釣りをしないけど、太郎さんの横に座って、いろいろ話を聴くことにしたんだ
哀しみの奴は、川べりで日向ぼっこしているよ、いい気なもんだなあ

太郎さん、昨日ね、太郎さんがお風呂に入っている間に、花子さんにいろいろ聴いたんだよ、ぼく
「聴いたってなにをだい?」
ぼくは花子さんから聴いたことを話した
でね、花子さんはどうでもいいっていうけど、ぼくは太郎さんと花子さんが愛し合っているんだなって思うんだ
「・・・・・」
太郎さんは答えなかった
ちがうの??
「皇子、これは誰かが言っていた言葉だけどね、愛というのは、幽霊と同じ、誰もが口にするが、見た人は少ない・・・・そういう言葉があってね
だから、俺にも愛し合っているかどうかは、実はどうでもいいんだよ」
えー、やっぱり・・・ぼく、ショック
「ははは、すまんな、皇子、夢を壊すようで
そもそも、本当に愛なんてものが俺たちにあるのなら、ここから二人で出て行っているさ
なぜなら、愛とは環境に左右されることなく二人を結びつけるものなのだろうから
俺は自分の不完全さはよく知っているつもりだ
だから、愛を見ることよりも、あいつを失いたくないだけなんだ
だから、こんな縛りのある土地に住んでいる」
うう・・・大人の話な気がしてきたよ、ぼく
あ、太郎さん、引いてるよ!
「おっと」
太郎さんが釣り上げた
じゃあ、太郎さんも二人きりになるために、ここに住んでいるのね
「そういうことだな」
それは、花子さんを失わないために?
「そうだ」
太郎さんはまた、釣り糸を垂れた
「ただね、ここから出て行くのは自由なんだよ
俺はあいつに強要はしていない
楽な生活じゃないしね」
でも、花子さんは出て行かない、ということは、花子さんにも太郎さんが必要だってことだね?
「そうなるかな、本当に、俺のことがどうでもよくなれば、出て行けるだろうから
ここでは一人で生きていけないとはいえ、ここから出て行くことは不可能じゃない」
だから、出ていかないということは、太郎さんのことが必要なんだね?
「あと、きっとな、あいつは、私が居ないとあなた、生きていけないでしょ?って思ってるんだと思う
まあ、その通りなんだがな」
太郎さんは川を見て笑っている

シミジミ~シミジミ~

あ、哀示美鳥だ!あいつも太郎さんに合わしてるのかなあ

「俺たちはきっと、臆病なんだよ
だからここから出て行けないのかもしれない
俺はいままで、いろんな人を見てきたよ
それこそ愛を熱烈に語るのもから、ニヒリストまでね
でも、その多くが自分の言葉とは裏腹に敗れていく姿を見てね
俺があいつを失わずにいられる方法として、ここに住むことを考えたんだよ
だから、弱者の智慧ではあっても、愛などと呼べる崇高なものじゃない
いや、愛でなくてもいいんだ、俺にはあいつが必要なんだから」

哀しみの奴が天を仰いでいる
きらきらと川の反射が、哀しみを照らして、ぼくはちょっと、奴のことを綺麗だなとか思っちゃったよ

ねえ、太郎さん、ぼくはさあ、幼馴染のミヨちゃんが好きなんだ
人に教えるのは太郎さんが初めてなんだけどね
ぼくらも太郎さんみたいになれるのかなあ
「なんだい、皇子、俺たちみたいになりたいのか?」
なんだかね、よくわかんないんだけど
「ミヨちゃんが、皇子のことをどう思っているかわからないけどな
ただ、皇子が誠実に差し出すことが重要なんじゃないかな?」
差し出す?
「そう、人間なんて不完全だから
好きな気持ちが相手を傷つけたり、そんなつもりがなくても追い込んだりしてしまう
だからって、それを恐れていちゃ、何も始まらないし、乗り越えてもいけない
ただ、誠実に、自分をね、差し出す
傷だらけでね、血まみれになっても、立って居なくちゃならないときがあってね
そうでなかったら、相手が皇子を見失ってしまうだろうから
人身御供じゃないけど、殉教みたいな気持ちはないと無理かもしれないね。」

なんか、ぼくには無理な気がしてきた・・・・・

「あははは、皇子はまだまだこれからだから」

ねえ、太郎さん、例のさ、やさしさの加わった涙についてなんだけど
ぼくは花子さんに聴いたことを太郎さんに伝えた
「あいつ、そんなことを」
太郎さんは微笑んだ
ぼくはね、誰かに拭いてもらう涙かなあとか思ったんだけど、花子さんは、ちょっと違うみたいだったんだよね
「そうだね、拭いてもらうことは表面上じゃないかな」
やっぱりそうなんだあ
「俺はね、あいつの涙を拭うときは、あいつの涙がわかるときなんだよ」
涙がわかる?
「そう、うまくはいえないけどね
あいつの涙が俺に伝えるものがあって、なんとなくね」

あ!そうか、わかったよぼく!
加わるやさしさって、涙を流している人の気持ちがわかって拭ってくれる人の涙なんだ
とても大切に思う人の涙を拭うこと、その人の哀しみを共有できる心、それが、やさしさなんだね!
「その職人のオジサンに確認してみないとわからないけどな、俺にも
皇子がオジサンと別れるときに泣いた涙をオジサンが拭ってくれて、それが宝石になったということは、皇子もオジサンが好きで、オジサンも皇子のことが好きで、だから、皇子の流す別れの涙の意味も気持ちもオジサンにはわかったんだろうな」

やさしさは、哀しみの共有から生まれるものなんだ・・・・

「皇子、だから、俺があいつの涙を拭ってやれるのは、俺もあいつと同じ哀しみを持っているということになるのかな
お互い、もどかしいほど相手を欲しているのに、上手くいかないときとかね、あいつはよく泣く
そして、俺は、こんな世界にあいつを閉じ込めて、それでもなお、あいつを泣かせてしまう自分のふがいなさや、ここを出て行かずに居てくれるあいつの気持ちにね、やりきれない自分に対する哀しさがあって、それがあいつへの感謝に入り混じって、涙を拭うのだろうな」

やっぱりぼくは異世界にいるんだと思うのね
でもさ、太郎さんと花子さんは嘘がないんだと思うのね
どうやったら二人でいられるのかって考えているのが、ぼくにはとくに心に響くのね

「お互いの不完全さを罵り合えば、どんな人間だって、永遠にいっしょには暮らせないだろうさ
ただ、それを越えてなお、その相手といっしょに生きていきたいと思うかどうか、そこなんだろうって、俺は思うんだ
条件ではなく、どうやったら、二人が必然になれるのか、それがね、俺のここに住む答えかな」

とうさん、かあさん、ぼくはさ、大人のことはわからないんだよね
必要とし合った二人が、どうして罵り合うことになるのか、ぼくにはわからなかったんだ
太郎さんや花子さんは、いつも自分達の弱さを直視しているんだね、だから、それをどうやって乗り越えて、相手といられるのか、そこを考えているようにぼくは思うね
とうさんもかあさんもさ、もう、いい歳なんだから、仲良くしてよね
最後にさ、太郎さんがぼくに話してくれたことを書いて、今日の手紙は終わっておくよ、また書くからね

「昔、詩人に石川啄木って人がいてな、その人が言ったという言葉があるんだ
それをね、皇子に贈るよ・・・・・・」


『必要とはもっとも確実なる理想である』
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by superkavi | 2007-07-28 00:44 | 哀しみ皇子

哀しみ皇子(8)

ぼくは哀しみを探索する哀しみ皇子

鏡のない二人だけの世界という駅で
ぼくは太郎さんに出会った
そして、ぼくはまた、泊めてもらうことになったんだ

太郎さんについて、家までいく
そこは、たぶん、手作りなんだろうね、質素な感じの家

「いま、帰ったよ」
太郎さんがドアを開けて入ったので、ぼくも後からついていった
「お帰りなさ・・・・あら?」
たぶん、花子さんなのだろう
やさしそうな感じの女の人がいた
「珍しく客だ、哀しみ皇子っていうんだよ」
太郎さんは、そういってぼくを花子さんに紹介してくれた
「あなたが客人を連れてくるなんて、珍しいわね」
花子さんは微笑んだ
そして、ぼくの頭と手の中の哀しみをそっと撫でて
「よく来てくれましたね」
なんていう
ぼくはちょっと、しばらく会っていない、かあさんを思い出したよ

「あなた、お風呂の用意が出来ていますから」
「ああ、そうか、ありがとう、皇子、君もいっしょにどうだ?」
あ、いえ、その、ぼくはお風呂が苦手なので・・・・
「あははは、なんだそりゃあ、まあ、いい
お?お前は来るか?」
ぼくの手の中から、哀しみが太郎さんについていく
え??お前、お風呂に入るのか?えぇ??
ホットな哀しみになってどうするのさ!
という、ぼくの問いかけは無視して、哀しみの奴はご機嫌でついていった
ぼくはあいつのことが、ちょっとよくわからない

花子さんは、食事を作っているらしい
太郎さんと哀しみがお風呂に入っている間に、花子さんに話しかけてみた
ねえねえ、花子さん
「え?花?・・・ああ、私のことね」
花子さんは、ぼくの呼びかけに少し驚いたようだった
だって、花子さんでしょ?
「まあ、そうだけど
本当の名前は違うのよ
ただ、ホラ、ここには、あの人と私だけで、呼び合うときも、お前とあなたで
元々の名前は呼びにくい名前なのよ、二人とも
だから、ここで二人のときは本名はいらないし、尋ねて来る人が呼びやすいように、って
太郎と花子は、あの人がそうやってつけた仮の名前なのよ」
ぼくは驚いた
そりゃあ、ぼくだって哀しみ皇子ってあいまいな名前ではあるけれど
「でも、花子でいいわよ、ここでは私を指すことには違いはないのだし」
そうなんだ、うーん、なんかちょっと複雑な気分だけど、ぼく
花子さん、ここではどうして鏡はないの?駅のおトイレにもなかったんだけど
「鏡はね、自己愛を増幅するからよ
まあ、これはある人が提唱した説でしかないけれど」
じこあい?事故にでも逢うの??
「うふふ、そうね、事故みたいなものかもしれないけど
自分を愛することが強くなってしまうってことなの」
それっていけないこと?ぼくは、自分を愛するように、他人を愛しなさいって
そう教わったよ
「皇子は真っ直ぐないい子
言葉でいうならば、皇子が教わったとおりよ
それが正しいわ
でもね、人間はそれほど賢くもないし、自分が可愛い生き物なのよ」
えっと・・・・それと同じように他人を愛せればいいんでしょ?
「そうね、でもね、出来る人が圧倒的に少ないから・・・そういう言葉って言われると思わない?」
ぼくは、グーの音もでなかった
確かにグーとはいわなかったけどさ

「鏡を置かないのは、私とあの人が二人でいられるため
髪の毛とかは、互いに切りあうのよ
私の髪は、あの人が私に似合うと思う髪形で
あの人の髪は、私があの人に似合うと思う髪形にするのよ」
好きな髪形とかにしないの?
「どうして?誰かに気にいってもらいたいとか、美しい、似合っているって言って欲しいのなら、私はあの人だから、あの人の思う髪形であればいいわ
そりゃね、長さとかはあるわよ、夏場とかはすっきりしてないと、作業に差し支えるとか、過ごしにくいとか、時々だけど、哀示美鳥の落としていった羽で飾ってみたり
そういうのはね、二人で話せばいいことだし」
お化粧とかしないの?
「あの人、あまり化粧が好きじゃないらしいから
ここではね、鏡が必要なことは、相手がいないと出来ないのよ」
それって、面倒じゃないの?時間もかかると思うし
「そうでもないわよ
ここでは二人だけだから、時間とか二人で共有するものだし
急かす誰か他の他人や社会があるわけでもないから
あの人の髭だって、私が剃ってあげたりするの
もちろん、面倒臭いとやらないとかあるけれど、いっしょにお風呂に入ったときに、頭を洗ってあげるとき剃ってあげたり」
ええ!い、いっしょに入っているの??お風呂
「そうよ、夫婦だもの、誰に気兼ねもいらないでしょ
それに、お風呂だからこそ気楽に話せることもあるし
毎回ってわけじゃないけれど」
ぼくのかあさんは、よく、とうさんに一緒に入ろうって誘われてるけど、入らないんだ
身体を見られるのが嫌だとか、なんとかで
「女性はね、たぶん、老いるのが怖いから
私もそうね、はじめはそうだったのよ
でも、あの人がね、老いるのはお互い様だ、俺はお前と重ねた年月をお前と分かち合いたいとか言ってね、無理やり
今では、慣れたけど
一緒に入ってね、あの人の身体を洗ってあげているとね、いろいろわかるのよ
今日はこんなところを怪我しているとか、肌の具合がよくなさそうだから、体調不良なのかな、じゃあ、食事はどうしようとか、お腹が出てきたなあとかね
あの人ね、私が頭を洗ってあげると、本当に気持ちが良さそうなの
たぶん、本当は、私・・・・その顔が見たいだけなのかもしれないけれど」

ぼくは、なんというか、とんでもない異世界にいる気がするのね

「ふふ、そうかもね
ここにはあの人と私だけだから、他から見れば異世界なのかも」
ぼくは愛し合うということは、あんまりよくわからないのだけれど、太郎さんと花子さんは愛し合ってるんだね
とうさんとかあさんなんか、最近、喧嘩ばかりしているよ、ほんとにもう
「愛し合っているかどうかは、私にもわからないわ」
え?だって、それだけ二人がなんでも一致した考え方できるなんて、そう呼ぶような気がするんだけど、ぼく
「私にだって、あの人の気に食わない部分もあるわよ、そりゃ」
花子さんが大笑いする
「あの人にも私の中で気に入らない部分は、当然あるわ
もともと他人だもの、すべてが合うことなんてない
私にはあの人が必要で、あの人も私が必要で、それがその気に入らないという部分よりも、二人で生きていくうえで大切なだけのことよ」
喧嘩とかしないんでしょ?
「あるわよ、当たり前でしょ
でもね、ここでは喧嘩したままだと、一人ぼっちになって、何もできなくなるから、お互いに
そういうときにね、お互いの大切さを教わって、それでね、仲直り
愛とかなんとか、私にはどうでもいいことなの
あの人が私には必要で、あの人も私が必要で、それだけだから
その関係を他人がどう呼んだって、私にはあまり意味はないわ」

とうさん、かあさん、花子さんのいうことをこうやって書きとめているから、少しは仲良くしてよね

ねえ、花子さん
ぼくは涙を宝石にできる職人のオジサンから、涙を宝石にするためには、やさしさが加わらないとダメだって教えてもらったんだけど、普通の涙と、やさしさが加わった涙の違いがわからないの
オジサンは、皇子にならきっとわかるからっていってくれたのだけど
あ、でも、花子さんは哀しくて涙を流すことなんか、ないよね
これだけ二人で支えあって生きているんだもの
「私だって、泣いているときだってあるわよ」
え?えー!そ、そんな
「女はね、意味もなく泣きたくなることだってあるの」
生活が辛いとか、そういうことじゃなくて?
「そういう時もあるわよ、でも、そうじゃなくって、ただ、なんとなく泣きたくなるときが」
それが、やさしさの加わった涙?
「いえ、そうじゃないわ
私がね、泣いていると、あの人がそれに気づくときがあるの
そしたらね、そっと、ほんとにそっとだけど、指で私の涙を拭ってくれるの
そのね、なんともいえない優しい顔を見たらね、涙が溢れてとまらなくなるの
その涙なんじゃないかなって」
そういえば、オジサンも相手の涙を拭ってあげていたっけ
そうか、拭ってもらえる涙なんだね
「形の上ではそうかもしれないけど、たぶん、本当は・・・・・」

いいところで、お風呂から哀しみと太郎さんが出てきた

うーん、もうちょっとでわかりそうな・・・・・

とうさん、かあさん、お風呂をいっしょに入らなくてもいいからさ
時々でいいから、背中の流し合いぐらいはしてもいいかなって、花子さんの話を聴いて、ぼくは思うんだけど
じゃあね、また手紙書くから
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by superkavi | 2007-07-26 03:03 | 哀しみ皇子

哀しみ皇子(7)

鏡のない二人だけの世界
なんていう駅にぼくは降りた
いつも思うけど
哀しみ本線の駅名は不思議な名前が多いの
駅でおトイレにいってみたんだけど
鏡はなかったね
なんでだろ?

手の中では哀しみが鼻歌を歌ってる
こいつに鼻があるとはぼくにも思えないけどね

男の人がいる
すいませーん
「ん?・・・こんな何もないところに、珍しい」
男の人はそういう
えっと、ぼくの名前は・・
「哀しみ皇子なんだってな、よろしく」
うーん、この人もぼくの名前をしっている
なんでだろう?まあ、いいや
よろしく、お名前はなんていうの?
「俺か?俺には名前なんかない・・・いや、必要ないからな」
え?じゃ、じゃあ、なんて呼べばいいの?
「ああ、そんなときは、太郎とでも呼んでくれって言ってある」
太郎?
「そうだ、そして嫁さんの呼び名は花子だ、わかりやすいだろう?」
そういえば、ぼく、出会った人の名前は何もしらないね
変な人、宝石職人のオジサン、売り子のお姉さん・・・・
「もっとも、二人しかいないから、おまえ、あなたって呼び合うぐらいだけどな」
太郎さんはそういって笑っている
そういえば、ここは、鏡のない二人だけの世界という駅だ
本当に二人きりってことなんだ
太郎さんは何をしているの?
「ああ、これか、農業ってやつだな」
農業がおしごとなの?
「いやあ、仕事っていうか、生きるために必要ってやつだな
ここでは何でもしなくちゃいけない
土地も他に比べれば痩せているしね
なにしろ二人きりだ
出来ることを二人でやって、支えあわなくちゃ生きていけないからね」
他の人は誰もいないの?
「時々ね、やって来たよ、ここの噂を聞いてね
ここでは一人で住んではいけない、という決まりがあってね
正確に言うと、一人では生きていけないってことなんだが
最低二人いないと、やっていけない
家族も来たし、恋人同士や夫婦、そんなのがたくさん来たよ」

でも、いなくなったの?

「ああ、多くは仲違いをしてね
ここはほら、貧しい土地だからね
多くを望むと争いになる」

じゃあ、どうして太郎さんたちは、ここに居ることができるの?

「なんとかここで採れる物で生活していけるし、愛する人がいる
そういうのを、幸せっていうんじゃないかい?皇子」

もっと欲しいとか、豊かになりたいとか、他の土地に住みたいとかはないの?

「貧しくても豊かでも、人は争いをするからね
貧しければ、お金がないと喧嘩し、分け前が不平等だと、富が多ければ喧嘩する
それに、他の土地に行ったって、生きていく苦労に違いはないから
皇子こそ、こんなところに何のようなんだい?」
ぼくは変な人に出会ったことや、職人のオジサンの話をした
「哀しみを探る旅にねえ・・・いまどき珍しいなあ」
感心したように太郎さんはいうけれど、そんなに珍しいのかなあ
でね、職人のオジサンが、涙にやさしさが加わらないと宝石にならないっていわれたの
それがぼくにはわからないのね
オジサンは、皇子にならきっとわかるっていってくれたのだけど
「なるほどなあ、そういうことかあ
皇子、今日はうちに泊まっていきなよ」
え?太郎さんところに?
「ああ、あいつにも皇子を紹介してやりたいし
ひょっとすると、その優しさの涙ってやつのヒントになる話をしてやれるかもしれんから」
どうしよう?こんども列車の発車時刻がよくわかんなくて
「二人の時間思い出のアルバムってやつだろ?
大丈夫さ、そんなに簡単に語りつくせやしないのだから」
太郎さんは笑った
どこからともなく

シミジミ~シミジミ~

と、哀示美鳥がないている声が聞こえるね
「ほら、哀示美鳥だって、そうしろって言ってるぞ」
太郎さんは、一本の木を指差してぼくにいった
そこには哀示美鳥が一羽いた
太郎さんは哀示美鳥の言葉がわかるの?
「いやあ、なんとなくさ
あの一本の木には、ときどき哀示美鳥が羽を休めにくるんだ
ここでは、数少ない我が友人というところだね」
太郎さんはまた笑った

とうさん、かあさん
ぼくはまた、しらない人の家に泊めてもらうことになっちゃった
ごめんなさい
でも、花子さんにも会っておきたいし
やさしい涙のこともしりたいから

じゃあ、また、手紙に書くね
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by superkavi | 2007-07-26 03:02 | 哀しみ皇子

哀しみ皇子(6)

ぼくは哀しみを探索する哀しみ皇子

つぎの停車駅は、鏡のない二人だけの世界なんていう
変な名前の駅なんだ
哀しみ本線って、かなり変わってるよ
でも、あんまり揺れないのはいいところ

「哀しみ本線名物『日本海』はいかがでしょうか~」
ねえねえ、名物『日本海』ってなんなのさあ
「哀しみ皇子、これはですね・・・・」
あれ?この人もぼくの名前を知っている、どうしてだろう?
「見ると哀しくなることの出来る抜群のお土産なんです
これとは別に『津軽海峡』というのもありますが」
売り子さんはそういう
ナマモノなの?
「えー、そういう風に言われていますが・・・・賞味期限があるわけではありませんので」
なんだか、よくわからない答えだね
じゃあ、哀しみをしるために、一つぼくに売ってちょうだい
「皇子、申し訳ありません、これは日本人という方々しかお売りできない決まりでして・・・」
にほんじん?誰さ、それ
「この、『日本海』や『津軽海峡』で哀しむことの出来る方々です」
じゃあ、ぼくではダメってこと?
「はい、そうなります・・・」
なーんだ、つまんないの
でも、この車両にはぼくだけじゃない
他の車両にどれだけの人がいるのか、ぼくしらないなあ
ねえねえ、日本人っていう人は多いの?
「昔はたくさんおられましたが・・・・いまは、すっかり少なくなりましたね」
どうしてさ?
「哀しみ本線ではなく、悲しみ鉄道(株)をご利用されることが多くなったと伺っております・・・・」
売り子さんは、ちょっと困った顔をしながら、ぼくに話してくれる
売りにいかなくていいのかな
どうなんだろうね?
ぼくは心の中で、手の中の哀しみにつぶやいてみた
手の中の哀しみはアクビしている
失礼しちゃうなあ、もう

売り子のお姉さん、哀しみマニュアルにあったんだけど
哀しみは、ままならないから哀しむのかな?
「難しいことはわかりませんが・・・・・
『日本海』なんかを買われる方々を多く見てきた経験から言わせてもらいますと
違う気がします
どこか懐かしそうに買われていきますから
それを見て、哀しむことができるということは、マニュアルのいうこととは違うと思いますね」
うーん、やっぱりそうかあ
ぼくはあの変な人に会わなかったら、そんなことも考えなかったなあ

売り子さんは、自分の話に熱中してきちゃったみたい
とうさんもそうだけど、大人ってすぐにこうなるよね
『日本海』のつまった籠を他の席において、寄りかかるようにして
売り子さんは、ぼくに話しかけてくる
いい忘れたけど、優しそうな女の人なんだ
すらっと背が高くってね

どうしてみんな悲しみ鉄道(株)にいっちゃうのさ
「悲は『心に非ず』と書きますから、ゼスチャーなんです
誰しも感情的にわぁーって騒いでそれで終われる、手ごろな悲しみのほうが楽ですから
自分一人で出来ますからね、悲しみは」
なんか違う気がするなあ、ぼくが哀しみ皇子だからかもしれないけど
「皇子はいい人なんですね」
売り子さんが笑っていう
職人のオジサンにもいわれたけれど、そうなのかなあ?
「哀しみ本線も、いろいろやったんですよ、それこそ、哀しみハイウェイ事業とか
でも、やっぱり喜びアウトバーン事業とかには敵わなくって
悲しみ鉄道(株)なんかは、高速道路に『悲しみSA』なんてものを作って
そこには『悲しみこそ人生のスパイスだ』って安っぽいフレーズなんかつけるんです
それがまた、人気がでたりしまして
けっきょく、この哀しみ本線は、民営化されることが決まってしまいました」

え?えーーーーー!
みんえいか?なくなっちゃうの?
「おそらく
哀しみ事業では採算が採れないらしいです
違う鉄道に変わるのではないでしょうか・・・・」

とうさん、かあさん
ぼくはショックだよ、哀しみ皇子なのに、哀しみ鉄道の力になれないなんて

売り子のお姉さん、じゃあ、淋しくなるね
ここがなくなったら、どうするの?悲しみ鉄道(株)にいくの?
「いいえ、あそこは売り子を必要としてないんです
だから、云っても仕方がありませんから
わたしはここで、最後の日まで、極上の哀しみを体験していただくために
サービスを提供するでしょう
あとのことはそれからです
皇子のように、哀しみを知ろうと、この哀しみ本線に乗ってくれるお客様のために」
売り子のお姉さんは、そういってしごとに戻っていった

今日は哀示美鳥の声も姿も見なかった
前に車掌さんが言っていたけど、昔、哀示美鳥はたくさん飛んでいて
それは美しい群れだったって

とうさん、かあさん、哀しみと悲しみは何が違うんだろう
哀しみが必要でなくなっているとするなら
ぼくは哀しみ皇子としてなにもできないのかな?
もうすぐ、次の駅だって
また手紙書くから
とにかく、ぼくは生きているからね
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by superkavi | 2007-07-26 03:01 | 哀しみ皇子

哀しみ皇子(5)

ぼくは哀しみを探索する哀しみ皇子

涙を宝石にするオジサンのお家に昨日は泊まったの
「皇子、そろそろ起きなさい、もうそろそろ琥珀色に染まる」
オジサンはそういった

ねえ、オジサン
ぼく昨日の夜、泣いちゃって涙が出たから、ハンカチーフに取ってあるの
これを宝石に変えてくれないかな
きねんに持っていきたいんだ
「皇子、これはダメだよ、前にも言ったが、優しさが加わっていないから」
残念そうにオジサンはいうけれど、ぼくはもっと残念なんだ
優しさってなんだろう?
あ、手の中の哀しみが、ぼくのそのハンカチーフを食べちゃった・・・

「さあ、皇子、哀しみ本線まで送るよ」
オジサンのしごと、今日は休みなんだって

涙を宝石に変えて、それをみんなはどうしているの?
「貧しい人はそれを売り、生活の糧にできる人もいる
お金持ちはコレクションだね
でも、多くの人は、哀しみの谷に持っていくんだ
谷の水底に宝石を沈めるのさ
そうすることで水が枯れないと昔から言われていてね
その場所は、世界でもっとも優しく泣くことができる場所だって
信じられているのさ」
哀しみの谷かあ、哀しみ皇子としては、一度いかなくちゃ
「あははは、皇子、そこには哀しみ本線はないんだ
自分の足で歩いていかないといけないんだ
それに、宝石を持っていないものは、入れないと云われていてね」
ええ!じゃあ、宝石を持っていないぼくは・・・・
「入れないということだね
でも、皇子が本当の哀しみを理解できるときに
その谷への道は開かれるだろうよ」
本当の哀しみ・・・・・・
やっぱり、哀しみマニュアルの言葉は、まちがっているのかなあ
「ままならないから、哀しむって、アレかい?」
オジサンは微笑んでいる
やっぱり違うのかなあ

プシューって、列車が蒸気を出してる

もう、発車の時刻みたい
ねえ、オジサンさんが死んじゃったら、もう、涙は宝石にならないの?
「そうだね」
どうしてさ?
「そういう決まりなんだ
俺には嫁さんも子供もいないからさ」
じゃあ、結婚すればいいのに!
オジサンがいなくなっちゃったら
谷の水も枯れて、涙を宝石に変える人がいなくなっちゃって
宝石を売れない人がふえちゃって、貧しい人がよけいに貧しくなって
で、で、で
この星になにかあったときに、修理できそうな人がいなくなっちゃうじゃない

オジサンは笑っている

「皇子はまっすぐな、よい子だね」
オジサンはぼくの頭をやさしく撫でてくれた
「世の中はね、悲しみが溢れている
哀しみ、ではなくてね
みんな派手なことが好きだし
涙を宝石に変えるということの
素晴らしさなんか理解しちゃいない
宝石を売ったり眺めたり、そういうことは理解できてもね
谷に行く人は、本当の哀しみを知る人だ
だが、その人も職人になろうとは思わない」

どうしてさ?

「自分の哀しみで、手が一杯だからね
人の哀しみまで面倒を見切れないのさ」

ぼくは泣いていた
べつにオジサンと離れるのが厭だから泣いたんじゃないのに
オジサンのあとをやる人がいないから?
たぶん、違うの
哀しみマニュアルなら、きっと
オジサンと離れたくないのに離れちゃうから
とか
すばらしいしごとする人が、オジサンを最後に終わっちゃうから
とか、いいそうだけど
違うの、そうじゃないの
言葉ではいえないけど・・・

「皇子はまっすぐな、よい子だね」
オジサンはまた、そういって
ぼくの涙をハンカチーフみたいなもので拭ってくれた
なんだか、涙が止まらなくて、ボロボロ
「皇子、この涙を宝石にして、記念に置いておくよ」
オジサンはそういったけど・・・けど・・・
ぼくの涙はやさしさが加わっていないからダメだって、さっき
「皇子、宝石にするための優しさの涙には、条件が二つある
一つは、誰かのために涙を流すこと
ただ、これは自分のために涙を流しても、原石としては使えるんだけどね
そのかわり、宝石としては、一級にはならないんだけど
そして
もう一つは・・・・・
これは、皇子、君が自分で考えなさい
皇子にならきっとわかるから
君が、哀しみ皇子で俺は嬉しかったよ
本当にありがとう」

ありがとうって、ぼくは何もしちゃあいない
それをいうのはぼくのほうだ
屋根の上に哀示美鳥がいて、こちらを見てる
めずらしく、なかない
そういえば、手の中の哀しみも、すやすや眠ってる

ベルがなった
列車が出るんだ
わかったよ、オジサン、ぼく考えてみるから!
そしたら、また、ここに来るから!
それまで、それまで・・・・
また、来るから!

ぼくは窓から一生懸命に手を振った
涙が飛行機雲のように尾を引いたよ
ぼくはどうして哀しみ皇子なんだろう
列車に並んで、哀示美鳥が飛んでいたよ

とうさん、かあさん
ぼくはまだ、旅をつづけるよ
オジサンと約束したから
変な人のいったとおり
ぼくは何もしらない
だから・・・

また手紙書くから


「えー、次の停車駅はー
鏡のない二人だけの世界
停車駅はー
鏡のない二人だけの世界
停車時間は
二人の時間思い出のアルバム~

二人の時間思い出のアルバム~」

車掌さんの声がした
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by superkavi | 2007-07-26 02:59 | 哀しみ皇子

言葉を線路に置き去りにした
電車に踏まれてさようなら
踏まれたものも踏んだものも
誰も気づきやしないけど
俺は言葉を失った


便器に向かって言葉を出した
それた言葉が寂しく零れた
だって男の子だもん
不潔と罵られたって
そんな日もある


いたたまれずに酒を飲む
飲みたいものは違うのに
ガソリン投下、罵詈雑言
燃えるなら君にだけ
と思うのに


むかし埋めた言葉探して
そこかしこを掘り返す
穴に嵌るだけで何もない
そう、なにもない
なにもないんだ


言葉がなけりゃ戦争は、もっと少なかったろう
形なきものに縛られて
売り言葉に買い言葉、同じ人が殺し合う
命がその対価というほどには
言葉に価値なんてありゃしないのに


逸る呼吸と高鳴る鼓動
それだけあれば君に伝わる
言葉なんていらない
幾千万の言葉をついでも
一言で潰されてしまう言葉より


置き言葉をしても脱線はしない
言葉がそれたってトイレは汚れない
言葉を燃やし尽くすなら酒でないほうがいい
思い出なんて忘れてりゃいい
言葉に縛られるのならいっそ
俺は君に縛られたい


証にすれば罵られ
言葉にすれば責められて
君を見失うよりも
届いて欲しい
サイレント・ヴォイス
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by superkavi | 2007-07-16 01:54 |

金色の夢の日々がついえ、「絶望」さえも滅ぼす力を失ったときに、わたしは知った。

喜びという支えがなくとも、生をいつくしみ、力づけ、養うことができるのを。


~(小野寺健「心にのこる言葉」より)~
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by superkavi | 2007-07-04 15:31 | 言葉のエナジー

五輪真弓『恋人よ』より


恋人よ そばにいて

こごえる私の そばにいてよ

そしてひとこと この別れ話が

冗談だよと 笑ってほしい
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by superkavi | 2007-07-03 03:31 | 言葉のエナジー

哀しみ皇子(4)


ぼくは哀しみを探索する哀しみ皇子

涙を宝石にする職人のオジサン家に泊めてもらって
涙のそうりょうはこの星だ
というオジサンの話を聞いている途中なの
哀しみ皇子だけど、涙の話なのは勘弁してね

「ずーっと、ずーっと、この先にいけば、海というのがある」
ぼくは海を名前だけしかしらない
オジサンはご機嫌だ
琥珀色がそうさせるのか、自分のはなしに酔っているのか
ぼくにはわからないけれど
「あれはね、実は涙なんだ」
海が涙?誰の?どうして?
「だから・・・・たとえば君がこの、涙の宝石の中にいて、涙を流したとしても
総量はかわらないだろ?」
うん
「それと同じなんだ
だから、海に行ったら舐めてごらん、涙の味がするからさ」
じゃあ、オジサンは海があれば、宝石をいっぱい作れるんだね
「無理だよ、皇子
言ったろう?優しさが加わらないと涙は宝石にはならないのだと
いや、そもそもこの星はすでに宝石なんだよ」

じつはオジサンは、本当はすごい人なのかもそしれない
哀しみがオジサンになつくのも、ちょっと悔しいけどわかる気もしたりしなかったり
オジサンの口から飛び出した音が符踊っている
なぜかぼくにはそれが、(シミジミ~シイジミ~)と鳴く、哀示美鳥の声に聴こえた

でもさ、オジサン
海ってさ、液体とかいうやつじゃない?
だからさあ、宝石って言えないんじゃないかって、ぼく思うのだけど
オジサンはどこか遠くを見ている
甲羅の入ったグラスは空っぽで、ついでに心も空っぽみたい
ぼくも甲羅を啜ってみるよ、未来の味だなんてオジサンはロマンチスト

「皇子、この星の中に俺たちがいるから、海が液体に見えるのだとしたら?」
オジサンはゼンマイを巻かれたおもちゃのように、突然に目覚めて言う
そんなこと言われてもねえ・・・ぼくには難しいな
「じゃさ、これならわかるかな
じつはこの星を宝石に変えたのは、俺のご先祖様だ」

またあ

「ウソじゃないって
ずーっと大昔に、この星が恋をしたんだ」

え?相手は?

「あの月さ」
ぼくは腰が抜けるという言葉の意味をはじめてしったよ
あ、抜けてはいないけど、ごめんなさい、ウソつきました
「この星はあの月が好きだったけど、どうしても振り向いてもらえなくってね
そのころのこの星は、今みたいじゃなくて
こんなに近くに二人はいるのにって、泣いたそうだ
それが海になって、いろんな生き物が生まれたわけなんだけど
ご先祖はその話を聴いてな、哀れに思ったから、この星を宝石に変えてあげたらしい
だから、この星は丸いし、その美しさに気がついたあの月が、ずっとこちらを見るようになったってね」

とうさんがよく、かあさんに、大人の本とかいうのを隠していて
見つかったときに、(言葉を失ったよ、とうさんは)なんて、ぼくに話してくれたけど
今日、ぼくは初めて言葉を失うという、とうさんの気持ちがわかったよ

でもオジサン、いくらなんでも、海は海なんじゃあないかなあ
「皇子、君は見たろう?俺は涙という液体を宝石に変えられるんだよ」

ぼくはオジサンに寝床を用意してもらって
この手紙を書いています
とうさん、かあさん

涙がこの星で、この星は宝石で、この宝石は美しいということなら
そこに住むぼく達も涙で、この星そのもので、そして美しい宝石ってことなのかな?

もう、涙を宝石に変えられるオジサンは、オジサンだけなんだって

なんだか、むしょうに、ぼくはとうさんとかあさんに会いたいよ
なんだか泣けてきちゃって、いっぱいあるハンカチーフで涙をちょっと拭いたよ
それを明日は、オジサンに宝石に変えてもらうね

おやすみ
大好きなとうさん、かあさん
また、手紙書くからね
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by superkavi | 2007-07-01 13:25 | 哀しみ皇子